時代とともに世界的な高まりを見せる、地球温暖化防止への取り組み。その一環として、「エネルギーの使用の合理化に関する法律」の一部が改正され(いわゆる次々世代省エネ基準)、平成21年4月から施行されることになりましたが、その背景に家庭部門の温室効果ガス(GHG)排出量を削減するという目的があることは言うまでもありません。それほど日本の住宅の断熱レベルは欧米諸国に比べて遅れており、今後もますます高い断熱性能が求められる傾向にあります。今回の改正は、その序章とも言えるものです。
わが国のGHG排出量は、1990年から2005年までに7.8%も増加しました。しかも、これを削減できる要素がなかなか見つかりません。中でも、住宅や建築に関わる民生部門の排出量増加率が非常に高く、家庭部門では約36%も増加しているというデータがあります。
早くから省エネに取り組んできた産業部門や、近年の努力によって排出量を減らした運輸部門などに比べると、家庭部門の排出量が際立っているといった印象です。このような点からも、住宅の断熱化が今後も求められることは間違いないと思います。
今回の改正で注目すべき点は2つほどありますが、もっとも大きなポイントは、建売住宅を年間150棟以上建てている事業者に対して、省エネ性能の向上を促す措置が導入され、守られない場合には「勧告」や「罰則」などの規定が新たに設けられた点だと思います。
ただ、「150棟以上の新築物件を手がける事業者」という点がまだまだ甘く、今後は150棟以下の事業者やリフォーム物件などにも、省エネ性能のさらなる向上が求められてくる可能性が高いと思います。それが時代の趨勢であることを考えると当然の流れですね。
2つ目のポイントは、延べ床面積が300㎡~2000㎡の建築物に対しても、省エネ措置の届け出などを義務付け、著しく不十分な場合には「勧告」するという規定が設けられた点です。従来は2000㎡以上の建物だけを対象としていましたが、今回、規制の範囲を広げたことによって、今後は中小規模のオフィスビルやマンション、木造アパートなどでも断熱化が推進するのではないかと期待しています。
最後に、このような法改正によって断熱化が推進されるメリットについてお話したいと思います。もちろん、断熱化によって家庭部門のGHG排出量が減るということが最大のメリットですが、それだけではありません。断熱性を高めることによって快適な住まいを実現し、ヒートショック(住居内の温度差)による被害や、結露・カビなどによる健康被害を軽減できるというメリットも見逃せないと思います。
たとえば、あるデータによると、住宅内の事故などが原因で死に至る人の数はすでに交通事故の死者数を超えていると言われますが、その中でもヒートショックが原因でお風呂やトイレで倒れるという事例が高い割合を占めています。それが断熱化によって減らせると考えると、住宅の断熱化を進めることは地球環境面だけではなく、そこに住む人間を守るという面でも不可欠な取り組みであることが理解できると思います。